一体彼らの財源は何なのだろう

 先ほど、隣人のくしゃみの声が遠く離れた場所から聞こえてきた。それでふと思い出したのだが、下の階のベトナム人が出てすぐ先にある同じ系列の別の物件の部屋に向かって歩いていき部屋に入っていくのを目撃した。どうも向こうにもベトナム人が住んでいるのだろうか、そこに遊びにいったようなのである。彼らはかなり近所に散らばって住んでいるらしく、いざとなるとそれらの仲間の部屋に転がり込んで生活できるようだ。で、隣人も隣の部屋が静かだなと思っていたが、どこか別の物件の仲間のところに退避しているのではないかという気がしてきた。

 ゴミ捨て場に日本語の教科書などかなりの量の教材が何回も捨ててあるのを見たこともある。彼らはたぶん日本語を学べる専門学校か何かに通っていて前年の教材を捨てたのだろう。あるいは進級できずに学校をいきなり辞めて教材を捨てたのかもしれない。彼らのうち3人が住んでいた部屋が今、空き部屋になっている。

 と、これを書いている間にまた大音量のくしゃみの発生源が隣室に戻ってきた。くしゃみをしながらひっそりと戻ってきたのかもしれない。彼らはなぜこんな落ち目の国にやってきたのだろう。もっと近くで成長性のある、インドあたりにでも出稼ぎに行ったほうが将来楽しく暮らせるだろうに。日本社会に溶け込むこともせず、いつもイライラした怒声を張り上げているらしいのである。不満ばかりをため込んで、いずれ爆発するのかもしれない。できれば隣室ではないところで爆発してほしいものだが、どこで爆発されても誰かに迷惑がかかってしまうことだけは避けてもらいたいと思うのだった。彼らはベトナム語と片言の日本語と英語を話しているようで、たぶん母国ではそれなりにエリートだったのだろうと思うのだが、日本に来てこの様子ということになると、日本ではせいぜい不良にしかなれない。なんとも言えない現実がある。