自分はとても不利な条件の中でやっているなという苦しみの中で、普通の人間にあがりたいというのではなくて、それ以上のところに成り上がりたいという夢を抱くのはよくわかる。スラム街からヒップホップスターになるみたいな感じである。そういう物語があるからこそ、人生に耐えられる。
私はしかし、一足飛びに一発逆転をしようとしていつも失敗してきた。自分は人よりも上に行けるはずだと言うある種のうぬぼれが苦しみの源泉だったと言う風に気づかない限りは、うまくいってもまたすべてを失って苦しむことの繰り返しから抜けられないと思うことがある。足ることを知るまでは、どれだけ満たされても不満足は消えない。這い上がることで救われると思いがちだが、それは人よりも恵まれていなかったという痛みから生まれるファントムペインだと思う。実際にはどこまで上がっても満たされないだろう。満たされるのは、その欲望が苦しみからの現実逃避だったと本当に腹に落ちてくるときなのかもしれない。私もまだその感覚にはなっていないけれど。不幸だった過去を許せれば、過剰なほどの上昇志向とともに苦しみもまた消えて、救われるのかもしれない。