S社のIさんの話

動画サイトで、S社のIさんが退社されてその後どうされているかの動画があった。

氏はS社がE社とS社で統合される前のE社に新卒で入られている日大法学部出身の方で、有名なタイトルのプロデューサーを歴任されてきた。

すれ違い通信とか、某RPGを無双化したものとか、ソシャゲタイトルとか私も好きだったタイトルも大体氏がプロデュースされていた。

でもよく考えてみると、あのRPGには社外の大御所が3名関わっていて、開発も外部の会社に丸投げしているタイトルで、氏はクリエイターではないしエンジニアでもない。有名クリエイターの間やユーザーとの間に御用聞きとして入っていく調整役のようなイメージなのかなという印象になった。

で、E社では非常に年収も低かったらしいのだがS社との統合で年収がS社のプロデューサーレベルに上がって、しかしあのRPGは大御所とデベロッパーで作っているわけだから、仕事の内容はそれほど変わらないのだろう。なにか編集者のような動き方をしているだけで、年収が2000万ぐらいになっていたということのように思える。役員のような年収で、部長の肩書もあって、しかし実際にはほとんどの実務は外部に丸投げということだと思う。

で、今は会社やタイトルのブランド力を失って、外資に会社を立ち上げてもらって雇われ社長をしているものの、その外資の戦略が大きく変わって引き上げられてしまって、素材だけが一流のインディーズゲームのようなものだけがリリース間近ということのように思える。

これは結構、しんどいのではないか、と思えた。

私は最初の転職の際に、むかし業界の有名人だった人たちが勢ぞろいしている会社に入ったけれど、その人たちは皆、ある意味では自分の実力で成功した人達だけではなかった。その時の仲間がほとんど揃っている状態でないと、たぶん成功は二度と再現しない。そういうことなのではないかということをあの人たちを思い出すと感じる。当然、彼らはコネがあるが、しかしそのコネはみな、もう過去の人となった人たち同士のコネであって、現在進行形で予算を動かしている現在の業界の一軍、スタメン世代に対するコネではないわけだ。

過去色々なタイトルがあった。例えば、FFを作った坂口さんは独立してまた成功したのか。タクティクスオウガの松野さんは、その後また成功したのか。フロントミッションの人は、GREEに転職してその後どうなったのか。デスストランディング小島監督は、そういう意味では私はかなり心配だった。でもほとんど唯一の成功例、希望になった気がする。でもほとんどの場合、最初の成功ほどには成功していない気がする。

セガはかなり質の高いゲームを色々出していたが、質の高いものがかならず売れるということでもなかった。釣りスタのようなものが、いつまででも高い利益率を叩き続けるということもある。エンタメなのか芸術なのかということ以前の問題として、マーケティング云々以前の問題として、漁師が取れ高を予測できないように、何がどうヒットするのか過去は分析できても、未来はまったく予測ができない。

S社のIさんの場合、成功タイトルがほとんど事実上大御所3名の名前で売っていたタイトルなので、本人にクリエイターとしてのファンがついていない気がする。昔の社名で賭けてもらうしかないのだが、その会社の太いパイプや予算をもう駆使できない。カネ自体は外資からひっぱれたとしても、自分自身のセンスや才能を信奉してついてきてくれるようなフォロワーが本人についていないと、熱狂的な協力をしてくれるチームが作れないのではないかという気がして、すこししんどそうに思えた。さらに、氏は一度年収が2000万に上がっているのだから、他社に入りなおすにしても取締役のポジションしかなく、かといって取締役に2000万円提示できる景気のいい会社が今そんなにあるような景況感でもない気がする。Iさんは、S社がE社と合併することでS社側のプロデューサーの水準まで待遇が上がったとされるのだから、合併前のE社でのプロデューサーの仕事の延長上で計算したときの年収を適正水準としてはじきなおして、その適正金額でのポジションをどこかで得るのが、一番無理がないのではないかという気がする。要するに、今までの配属ガチャでSRを引いた状態での、レバレッジがかかりまくった状態の評価を、適正評価に測りなおした状態での本人自身の実力だけみたときの市場価値で、安住の地を模索されるのがいいのではないか……と。

ようするに、すごい人たちに作ってもらってただけでしょ、と見られてしまって本人がすごい人じゃないのではと思えてしまったのだ。大企業にはそういう人達がいっぱいいる。この人たちは巨大プロジェクトをぶん回している気でいる。しかしぶん回す仕事すらも外注して、本当は本人は年収だけが異常に高い、口ほどにもない人になってしまうことがあるのではないか。そんな気がした。