むかし、いい会社に通っていたことがあった。
当時はそれが当たり前になってしまい、感謝できなくなっていた。
あんないい環境にいてなお、さらに不満を抱いていた。
正直、あんなところにいたと言っても今ではうそだと思われて誰も信じてくれないぐらい、そんぐらい自分にとってはもったいない世界だった。感謝の気持ちになるということは本当にむずかしい。幸せを実感することは本当にむずかしい。むしろあんな状況なのがいちばんつらかったなと思う。まさにあのころにすべてを壊すきっかけがはじまったのではなかったろうか。幸せの中で少しずつおごりたかぶっていき、その結果としてあのような世界を望むようになり、そしてまさにあの恵まれた環境こそが自分のそれまでの幸せを、それと気づかずにうち捨てさせてしまった元凶のようにも思えてくる。
当時、一緒に働いているチームは男女比が逆転していた。
上司が女性で、彼女がやりやすいようにということなのかどうなのか、メンバーは女性ばかりで自分は数少ない男だった。その中で、私は感覚がおかしくなっていった。同棲していたのに、元カノに不満を抱くようになってしまっていた。それで、一人になり、そうして、二年半の断酒の反動で浴びるように飲んで会社にいけなくなって、仕事も同棲生活もなにもかも失って、株で生活するという狂った発想にとりつかれたりして、おかしくなった。たまたまの偶然の縁がなければ、いまこうして生きていることなんてありえないぐらい危険な状態だった。