目の前の幸せに気づかない

 目の前の幸せに気づかないというのはどういうことなのだろう。

 人はいつかは腹が減るものである。

 いま腹が減っていなくても二度と腹が減らないということにはならない。目の前にフランクフルトの屋台があったとする。今腹が減っていないから通り過ぎる。気も付かないかもしれない。でもいつかは腹は減る。買っておくほうが賢いといっているのではない。でも、その時はいらなくても、腹が減った時には今無視したものこそが、ちょうど欲しいものだったりするだろう。だからといって買っておくほうが賢いということではない。

 人の幸せというのは、そういう、もともとは目の前にあって気が付かなかったものが、時間と空間が異なるタイミングで、急に足りなくなる。そしてそれが今あれば幸せなのにと思うようなものなのではないかと思う。かつてはまったくいらなかったし、その時に手に入れておいても幸せは感じなかったようなもの。失っていることにだいぶ後から気づいて、あとから欲しくなるようなものなのかもしれない。