断酒の会は武勇伝のカミングアウトの場だと言える気がする。
でも、それは自分が昔はこんなにすごかったという話ではなく、自分が昔はこんなにひどかったという話である。失敗談。しくじり先生的なもの。
ああこんなにひどい状態だった人が立ち直れたのかという話を知る。それをたくさん聞くたびに、そんなになっても大丈夫なら、自分もまだ大丈夫かもしれないという気持ちになる。
そういう話を聞くたびに、また一日持ちこたえられるのだ。断酒の営みは、山頂の見えない登山のようなところがある。目の前の一歩を上る。山頂を目指そうとしても、絶望しかみえない。だからとりあえず今、一歩だけ上る。今日は一歩でもいい。一歩近づいたと思えればいい。ずり落ちないこと。転落しないこと。終わりのない消耗戦を、一日持ちこたえること。その繰り返しだ。でもそれでは希望がない。自分が何かに近づいているという希望が必要だ。それが、見えない山頂である。そこには何か尊いものがある。目に見えない何か。手で触れられない何か。